さる3月24日、25日に開催された『Pacific Osseointegration Conference』での講演についての感想を歯科衛生士の視点からお話しさせて頂いております。今回は3回目です。
ブローネマルクシステムの生みの親である、ブローネマルク教授が講演の中で『私達は大工仕事をしているのでは無く、生きている生体(顎の骨のこと)を相手にしているということを常に考えなければならない』とおっしゃっていて、その言葉が非常に印象的でした。
実際に、歯科界では、インプラントを顎の骨の中に入れる事を「インプラントを打つ」と表現されることがあります。まるで板にクギを打っているかのように聞こえてしまうと思いませんか。
教授は決して大工さんの仕事を揶揄するつもりで言っているのではないのです。
例えとして、「生き物でない物にクギを打つ時に注意すべき事と、生体に人工のチタン性のスクリューを移植する時に注意する事が同じではないはずです。
相手が生体である以上は、感染、術中、術後の反応、患者さんのQOL等、様々な事を注意しなければいけない、現在のインプラントを取り巻く環境はその事をわすれてしまってはいないか?」と問いかけているのだと思います。
実際に、現在のインプラントを取り巻く環境では色々な変化が急激に起こっています。おそらくこれはインプラントに限らないと思います。
社会、経済、政治様々な環境で、少し前では考えられなかったようなスピードで物事が変化していますし、それをおそらくは私達も要求してしまっています。
たとえが悪いかもしれませんが、携帯電話やパソコンはヘタをすると3ヶ月もすると古くなってしまいます。そのスピードについていく為に、充分な検証もされず、本当に必要かどうかもわからない改良(改悪?)がされ続けてしまっていることも多いのでは無いでしょうか?
話は戻りますが、インプラントの世界でも様々なコンセプトが次々と発表されており、その中には、確かに短期的には素晴らしい臨床結果を示しているものもありますが、いかんせん研究ならびに経過観察の期間の短いものがほとんどなのです。
新しくより簡便で安価なものを望んでしまう風潮、そしてそれを作り出す商業主義の大きな力に巻き込まれてしまっているのかもしれません。
ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、ブローネマルクシステムのインプラントは10年以上に渡る基礎研究のうえで臨床に応用され、すでに40年以上の臨床実績がある治療なのです。
そして、今ある多くのインプラントのシステムがブローネマルクシステムを何らかのかたちで模倣しているのですが、それに加えシステムをより簡便で安価なものにしてしまっている物も存在するのです。
教授は「マイナーチェンジをする事が、けして上手くいくとは限らない。」とも言われていました。
売らんがために、やりたいがために、慎重さを失ってしまってはいけません。
たとえ、改良する、模倣するなら上っ面では無く、真髄を理解しその上で行うべきではないでしょうか?
インプラント治療が、みなさんにとって安全で確実なものになってほしいと教授は心から考えていると思います。
けして自分の開発したシステムにこだわっているのではないと思います。なぜなら、教授は、ブローネマルクシステムのパテントを持っている訳ではないのです。