今日は、インプラント手術を行うにあたって、解剖学の面から留意する点についてお話しをしたいと思います。さる9月30日の健康歯考講座で「インプラント治療の安全性」をテーマにお話しをさせて頂きましたが、インプラント治療を安全に行う上で、解剖は大変重要なことです。すこし難しい内容になりますが、ご参考になればと思います。
インプラント治療に限らず、虫歯や歯周病の治療の際にも、歯の形態や根の形態など口腔解剖を理解していなければ、治療を行うことはできません。インプラント手術の際には、それに加えて顎の骨の形態、神経や血管の走行など留意しなければならないことが多くあります。
例えば、下顎には太い神経が走行している管があり、犬歯より奥側の奥歯がないところにインプラントを埋入する際には、神経を傷つけないよう十分に注意をしなければなりません。神経が傷ついてしまうと、口唇に麻痺をおこします。上顎には上顎洞といわれる空洞があり、その空洞にインプラント体が貫通しないよう注意をしなければなりません。(以前から、貫通しても問題はないといわれていますが、基本的にはできるだけ浸襲はない方がいいと考えています。)
このような解剖学的な面からインプラント治療を考えた時に、手術前の診査がとても重要になります。術前のレントゲンやCT、画像診断などによって、あらゆる面から診査をします。インプラントをどの場所に、どの方向に埋入することが最善なのかを解剖学的に考え、決定します。ただし、実際の骨の状態によっては、事前の予定が変更になることがあります。いくら十分な診査をしても、実際の身体の状態は若干違う場合があるからです。その点についても予め予測をし、実際の手術では、もちろん事前の計画は考慮しますが、その場で直接判断し、骨に最も適している位置に、最も適した長さのインプラントを埋入します。
また、手術の際に血管を損傷する危険性については、歯肉の切開の位置、切開の方法を考慮し丁寧に歯肉を剥ぐなど、丁寧な手術を行うことでリスクを減らすことが可能です。
解剖学とは統計的なものですから、個々によって様々であること、レントゲンにも誤差があることを考慮し、単なる予測ではなく、解剖学的な根拠に基づいた予測をすることが重要です。
このように手術を執刀する歯科医師が解剖を十分に理解し、インプラント手術を行うのは当然のことですが、アシスタントに入る歯科衛生士も解剖を理解し、術者1人だけでなく複数の目で手術を行うことで、インプラント治療をよりいっそう安全に行うことができるのだと考えています。