今回はわたしが、どのようにして開業に至ったのかをお話しさせて下さい。
ほとんどの歯科医師にとって開業は一つの夢だと思います。その夢を実現させる為には、明確な目標を持つこと。あるいは、その夢を可能な限り具体的なものにする為の努力をすることが大切で、情熱を持って生きることでその夢は実現可能なものだと思います。
卒業直前のわたしは、ただ何となく、「いつかは開業したいな」とは考えてはいても明確な将来の目標を持っていたわけではありませんでした。私の身内には開業医はおろか歯科医療関係の人間が一人もおらず、開業するにしても具体的にどうしたらいいのか分かりませんでしたし、それはいったいいつになるのかも全く見当もつきませんでした。
明確な目標を持つためには、現実を知る事が必要です。そして、そこから具体的な目標や夢が創り出されていくものだと思いますが、私にはその明確な目標がありませんでした。
卒業後は、当時の大学の病院長の紹介で、幸運にも素晴らしい医院に勤める事ができました。そこの医院で私は、常に勉強して様々な知識を取り入れる事の大切さや、臨床を基本から学ばせていただけたのです。
先輩の先生達の猛勉強している姿を通して、自分がいかに勉強不足かという事を痛感しました。当時の私にとって、先輩の先生達は雲の上のような存在で、自分の将来の姿と結びつける事などできませんでした。
先輩はご多忙にも関わらず、英語のできない私にその当時世界的に読まれていたリンデ教授のクリニカルペリオドントロジーという素晴らしい本を英語で読む、という目標を与えてくれ、内容が理解できない時には、優しく指導して頂きました。その一冊を読み終えることができた時の充実感は今も忘れる事ができません。
いろんな事に興味がわき、勉強や臨床に目標が出来始めた矢先、私の手足に異変が起きました。指先に水泡が現れ、そしてその水泡が破れて爪も剥がれそうになったのです。通院治療するも改善せず勤務を続けることを断念せざるを得なくなりました。
その時は歯科の仕事を断念せざるをえない状況まで追い込まれ、自暴自棄になりかかっていました。仕事をやめて治療に専念すると、病気は嘘のように改善し、非常勤で診療ができるようになり、その後、先輩の勧めもあり開業する運びとなったのです。
開業するにあたり具体的な目標はありませんでしたが、ただひとつ、開業するなら御身体に不自由のある方と共に働きたいという思いがあり、開業するテナントも一階を選びました。しかし、見識の甘さから最初の開業地では通勤の問題(駐車場のほとんどがタワー型のため、車いす利用者には不適切)等で雇用はあきらめざるを得ませんでした。
それでも、将来はなんとか一緒に働きたい!という思いは、消えることはありませんでした。